むかしむかし、ある国の小さな町に、ガラスの小箱を手放せなくなった人々が住んでいました。朝が来ればその小箱をのぞき、夜になっても手放さず、夢の中でも気にしてしまうほど。町の人々はいつの間にか、小箱の中の光に心を奪われ、本当の世界の色や音を忘れかけていたのです。
そんな町の片すみに、静かな少女が住んでいました。彼女の名前はリリ。リリもまたガラスの小箱を持っていましたが、ある日ふと思ったのです。
「この小箱を見てばかりいて、本当の時間はどこへ行ってしまったんだろう?」
そうして彼女は、小さな冒険を始めることにしました。それが、「デジタルデトックスの旅」でした。
まずリリは、お風呂やベッド、ごはんの時間に小箱を使うのをやめてみました。すると、不思議なことが起きました。湯気の中の香りが優しくなり、ごはんの味がきちんとわかるようになり、夜はすうっと夢の世界に行けるようになったのです。
次に、リリは小箱の「ぴこぴこ音」を止めました。通知という名の小さな妖精たちを、そっとおやすみさせたのです。朝・昼・夕の三度だけ、小箱を開くことにしてみると、心の森が静かに広がっていきました。
リリは小箱を箱に入れ、少し遠くに置きました。そして、手紙を書いたり、鳥の声を聞きながら散歩したり、パンをこねたり、夢のノートに思いを書き出すようになりました。まるで魔法のように、毎日がゆっくりと流れ出したのです。
ある週末、リリは「電波の届かない森の宿」に出かけました。そこには、風の声と木の葉のささやきしかありません。焚き火の匂いを吸い込みながら、リリは自分の心とたっぷり話をしました。あの光る小箱よりもずっとあたたかいものが、そこにあったのです。
旅を助けてくれたのは、「Forest」という不思議な魔法のアプリ。小箱を触らない間に木が育ち、森が広がっていきます。もうひとつの秘密道具は「ポモドーロ」という時間の魔法。25分の集中と5分の休憩をくり返し、リリの一日は美しいリズムで満たされていきました。
こうしてリリは気づきました。小箱をすべて閉じるのではなく、「ちょうどいい距離」を見つけることが大事なのだと。そうすれば、本当の世界がまた話しかけてくれるのです。
ガラスの小箱に夢中だった町の人々も、リリの魔法を少しずつ真似するようになりました。そして、町の空には、少しだけ広くなった時間と、ゆっくり息をする心が流れていくようになったのです。
おしまい。